東藝術倶楽部瓦版 20161128 :山との共生が松茸を育てる!

 

東藝術倶楽部会員各位

 

おはようございます。昨晩の雨も止み、まだ雲に覆われている東京ですが、今日は朝から何となく胸騒ぎを覚えます。大きな事故や災害が起きなければと心配になるところですが...

 

さて、本日は「秋の味覚」についてご紹介したいと思います。食欲の秋といわれるように、秋にはたくさんの食材が旬を迎えます。その中で、山での秋の代表格といえば「松茸」を思い浮かべる人がほとんどではないかと思います。

「匂い松茸味しめじ」といわれるように、キノコの中でも松茸の香りは特別です。栽培ができず天然モノしか食べられない希少価値のキノコであることから、今では非常に高値で取引されています。中国や韓国、米国などからも輸入されています。

 

今では高値の華の松茸ですが、江戸時代以前の京や大坂では松茸の専門の市が立ち、庶民も普通に食べていたようです。武士も農民も身分の上下を問わず松茸狩りを楽しんでおり、商家の女性たちにとっては秋の行楽の一つでした。

 

一方、江戸の庶民は松茸にはほとんど関心がなかったようです。男子トイレに「急ぐとも 心静かに手を添えて 外にこぼすな 松茸の露」という張り紙を見た人もいるかと思いますが、こうした狂歌などに詠まれることはあっても、食べ物としての認識は低かったようです。

その最大の理由は、江戸の近郊には松茸が生える赤松の山がなく、江戸っ子は生の松茸を見る機会がほとんどなかったからだといわれています。関西では古来落葉樹の伐採が進み、その後に痩せ地でも育つ赤松が増えて、その結果松茸が生えるようになったのですが、江戸時代以前の関東は落葉樹がまだまだ多く、赤松が少なかったのです。

 

関東の山間部では松茸が獲れることもありましたが、江戸に運ぶうちに乾燥したり、腐ったりして、庶民の口に入ることはほとんどありません。関東の大名から将軍家への献上品として宿場ごとにリレー方式で運び一昼夜で届けた例もあるくらいです。

とはいえ、江戸でも関西から送られてきた塩漬けの「漬け松茸」を料理茶屋で出していたようです。これは軸の先端部分の「石づき」を切り落とし、つぼみはそのまま、傘の開いたのは軸と傘を切り離して茹で、冷ました後に塩を敷いた樽に並べ、また塩を松茸が隠れるくらいにかけて、その上に松の葉を置き、その繰り返して樽が一杯になったら樽の底に穴を開けて水分を抜くというものです。この漬け松茸は、先ず塩抜きをして汁物や煮物などに使うのですが、当然香は失われています。

 

寛永20年(1643年)刊行の『料理物語』には、「松茸 古酒にてさわさわといりさかけ(酒気)のなき時白水をさしだしたまりくはへ(加え)ふかせ候てすいあはせ出し候。すい口 柚輪切(ゆわぎり)其まま入吉(いれてよし)」という記述が出てきます。また、享保15年(1730年)の料理書『料理綱目調味抄』(中川茂兵衛ほか)には「松茸を常のかけんに漿にていり生かみそに柚酢(ゆす)を加へ温(ぬくめ)て掛るごまのいりたるもよし」とあり、宝暦14年(1764年)の『料理珍味集』にも「松茸笠軸よきほどに薄く切寒鍋(からなべ)に入いる也灰汁気出るを捨てしやうゆをさしいりて柚酢かける」と、松茸の調理法に関する記述がみられます。これらの記述から、江戸庶民の松茸の定番の食べ方は、煎った松茸に出汁や醤油かけ、それに柚を添えるというものだったことが分かります。

 

昔と比べ、今の人々はほとんど山との共生をしなくなりました。昔の人々は、山に入って落ちている枝や灌木をとって薪に使ったり、落ち葉をとって有機肥料にしていました。実はこのことが里山の手入れにつながり、松茸などのキノコや山菜の生長を促してきたのです。石炭・石油・ガスといった化石燃料によるエネルギー革命や農薬・化学肥料による農業革命が、人々の暮らしを大きく変えましたが、それが却って山の豊かな恵みを奪うことにつながったのです。

 

高見澤

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このページは、東藝術倶楽部広報が2016年11月28日 10:58に書いたブログ記事です。

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