東藝術倶楽部瓦版 20161130 :道具と調味料と食材と-鍋料理誕生秘話

 

おはようございます。11月も今日で最終日、今年も残すところあと1カ月となります。何事もなく無事新しい年を迎えたいところですが、今の世の中何が起きるか分かりません。常に意識を持った行動に努めましょう。

 

さて、寒い日が続いていますが、こんな日は鍋をつついて一杯、という人も少なくないでしょう。そこで、本日は「鍋料理」についてご紹介致しましょう。

日本で現代のような鍋料理が登場するのは比較的新しく、江戸時代後期のことです。鍋そのものは古くからありましたが、鍋で煮炊きした料理は必ず一人前ずつ椀や皿に盛りつけて食べていました。鍋に自分の箸を入れて食べるというのは、無作法とされていて好まれなかったようです。

 

これが江戸時代中期になると、焜炉や火鉢といった持ち運びのできる小型の過熱道具が普及し、燃料も薪から煙が出ない炭が使われるようになります。これにより、竈や囲炉裏がなくとも台所以外の部屋で鍋が使えるようになりました。そうなると、熱いものは熱いうちに食べるのが美味しいわけで、知らず知らずのうちに鍋料理が普及していくことになったのです。ところが、最初のうちは焜炉や火鉢も大きいものではなく、一人一人の膳で食べる習慣が根強かったために、鍋も一人前か二人前程度の小さなものでした。これを囲炉裏に掛ける「大鍋」に対して、「小鍋膳立て」、略して「小鍋立て」といいます。また、それまで塩や味噌が主体だった調味料も醤油や味醂が普及し、味付けにバリエーションができたことも鍋料理が広まる要因の一つになったものと思われます。そして、江戸時代後期になると、焜炉や火鉢も大きくなり、鍋を囲める人数も多くなりました。こうして鍋料理が庶民の間でも広まっていくことになったのです。

 

江戸の鍋料理の代表的なものは、「ねぎま鍋」、「どじょう鍋」、「あなご鍋」、「しゃも鍋」、「ぼたん鍋」などです。

「ねぎま鍋」というのはネギとマグロのトロ身を入れた鍋で、以前本瓦版でもご紹介した通り、マグロのトロ身は嫌われ者の「猫またぎ」でしたが、これを鍋に入れてみたら脂がのっていてめっぽう美味しい、ということで居酒屋や独り者の料理として広まったものです。

「どじょう鍋」は、それまで内臓も取らずに丸ごと味噌汁で食べていたものを、小鍋立てが登場してから醤油で煮て食べるようになりました。文政年間(18181830年)には裂いて内臓や頭、骨を取ったものを出す店も登場すると、丸ごと煮たものをあえて「丸煮」と呼ぶようになりました。天保年間(18301844年)には、裂いたどじょうの下に笹掻きゴボウを敷いて上に玉子とじをかける「柳川鍋」が登場します。売り出した店の名前「柳川屋」からこの名前が付いたという説が有力のようです。どじょう屋では「あなご鍋」も同様の味付けで客に出していました。

「しゃも鍋」は鶏鍋のことで、今の水炊きとは異なり煮汁が少ないすき焼風の鍋だったようです。「しゃも」はいわゆる「軍鶏」のことで、闘鶏用に飼われていた軍鶏を食べていたのですが、鍋料理が普及すると軍鶏以外の鶏もすべて「しゃも鍋」として呼んでいました。

「ぼたん鍋」は「ももんじ屋」で出される薬喰いの獣肉鍋です。滋養強壮を目的として食べていました。

 

そしてこれら鍋に欠かせないのが「根深ネギ」です。江戸の鍋料理の真の主役はこの白くて太い「根深ネギ」だという人もいるくらいです。江戸時代初め、関西からの農民が隅田川東岸の葛飾や葛西に入植し、青ネギを持ち込みました。しかし冬場になると低温と乾燥で葉が枯れてしまいます。そこで葉の下部に土をかけて保護したところ、白く軟化して甘い根深ネギができたとのこと。木枯らしに当ることで甘味が増すともいわれます。

 

焜炉や火鉢等調理道具の登場、醤油や味醂といった調味料の普及、そしてネギなどの食材の開発がタイミングを同じくして揃い出たことで、はじめて江戸の料理革命が生まれるに至りました。鍋料理誕生秘話ともいえるでしょう。江戸の素晴らしさを再認識させられる鍋料理なのです。

 

高見澤

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このページは、東藝術倶楽部広報が2016年11月30日 09:53に書いたブログ記事です。

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