東藝術倶楽部瓦版 20170111 :日本における暦法の変遷

 

おはようございます。年が明け、すでに10日ほど経ちましたが、各界の間では今週から来週にかけて賀詞交換会が開かれます。今年の見通しなどを聞いていると、米国のトランプ大統領就任や英国のEU離脱交渉など、ほとんどの人が何かと懸念を示しているところですが、それぞれの国民がそのような道を選んだという事実を率直に受け入れ、なぜそうなったのかという理由を考えるべきだと思います。そうでないと、日本だけが世界の標準的な考え方から取り残されてしまうことになるでしょう。

 

さて、本日からは江戸の暦の話に戻りたいと思いますが、その前提として、日本ではいつ頃から暦が使われていたのかについて、先ずは通説をご紹介しておきましょう。

 

中国から日本に伝えられた最初の暦とされるのが「元嘉暦(げんかれき)」で、6世紀に朝鮮半島(百済)を通じて日本にもたらされました。ですから7世紀初めの推古朝にはすでに中国の暦が使われていました。では、それ以前に暦がなかったのでしょうか?

 

3世紀に中国で編纂された『三国志』の「魏志東夷伝」によれば、当時の日本について「その俗正歳四節を知らず、但し春耕秋収を記して年紀となす」とあり、1年の長さや春夏秋冬の節目となる立春・立夏・立秋・立冬は知らないけれども、春に田畑を耕して秋に作物を収穫することで年を数えていたということでしょう。

 

ちなみに余談ですが、ここに出てくる『三国志』は正史としての『三国志』で、当時の事象を記した歴史書であり、魏、呉、蜀のそれぞれの歴史を記した『魏志』、『呉誌』、『蜀誌』から成っています。一般に知られている『三国志』は『三国志演義』と呼ばれるもので、後の明代に羅貫中という人物によって書かれた歴史小説です。

 

話を暦に戻しますが、日本で暦日の管理が始まったのは、百済から元嘉暦の暦本が献上された直後の推古天皇12年(712年)頃と言われています。後年に編纂された記紀(「古事記」と「日本書紀」)では推古朝以前の年までが干支で表されており、その理由は編纂過程で施行された暦法によって逆算したらかではないかと思われます。逆算して干支を配するには、過去の事象の年月日が何らかの形で記されていなければなりません。それが「大化の改新」と呼ばれるクーデターで焼失した「天皇紀」、「国記」ではなかったと思われますが、このお話しはまた別の機会にご紹介したいと思います。それにしても、この時代には既に「干支」があったというのですから驚きです。「干支」については、後日、暦と絡めてご紹介します。

 

日本において公式暦の始まりは、持統天皇によって「元嘉暦」と「儀鳳暦(ぎほうれき)」が施行された690年とされています。元嘉暦と儀鳳暦はいずれも中国で考案された太陰太陽暦です。元嘉暦は中国南北朝時代の宋の天文学者・何承天が編纂した暦法で、19年に7閏月を置き、1太陽年を365.2467日、1朔望月を29.530585日とするものです。儀鳳暦は中国・唐の天文学者である李淳風が編纂した暦法で、中国では「麟徳暦」と呼ばれ、太陽と月の運行の不均衡を考慮した定朔法を用いて朔日を決めるものです。

 

元嘉暦と儀鳳暦の併用が690年から始まり、697年からは儀鳳暦が単独で使われることになります。その後、764年からは「大衍暦(たいえんれき/だいえんれき)」、781年には中国からもたらされた「五紀暦」が大衍暦と併用され、862年からは「宣明歴(せんみょうれき)」が使われるようになります。いずれも中国で考案された太陰太陽暦です。

 

この宣命暦は、正式には「長慶宣明歴(けいちょうせんみょうれき)」と呼ばれ、日本においては1685年の日本独自の暦である「貞享暦(じょうきょうれき)」が考案されるまでの823年間使われた史上最長の暦です。中国・唐の徐昴が編纂したもので、当時としては優れた暦法とされ、特に日食や月食の予報が正確であったと言われています。

 

次回からは、いよいよ江戸の暦に入っていきたいと思います。

 

高見澤

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このページは、東藝術倶楽部広報が2017年1月11日 09:55に書いたブログ記事です。

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