東藝術倶楽部瓦版 20170602 :社日に針線を止むー針供養

 

東藝術倶楽部瓦版

 

おはようございます。昨日、都心では午後1時半頃に1時間に70ミリの大雨が降りました。昼を挟んで外出したのですが、午前中は晴れていたので傘を持っておらず、外出先でどうしようかと迷っていたのですが、何と打合せ中に雨はすっかり止んでしまいました。熱帯雨林を想起させるような突然の豪雨も、スコールのように一瞬の出来事でした。世間で騒がれている地球温暖化の原理は大いに疑問の残るところですが、着実に異常気象が起きているのはまぎれもない事実です。

 

さて、本日のテーマは「針供養」です。この針供養というのは、折れた針を供養し、裁縫の上達を願う行事として知られています。針は着物の時代の大切な道具の一つでした。この針供養の行事が広まったのもまた江戸時代のことです。昔から、針仕事は女性にとってとても大事な仕事であったことは、皆さんよくご存じのことでしょう。ですから、この針供養の日には、針仕事を休んで、お世話になった針を、感謝の気持ちを込めて、柔らかい豆腐やコンニャクに刺し、川に流したり、神社に納めたりして、裁縫の上達を願ったということです。

 

この針供養ですが、一般に関東では旧暦2月8日、関西では旧暦12月8日に行われていました。古来日本では、この両日を「事八日(ことようか)」と呼び、「事始め」と「事納め」の日とされてきました。次の年を司る「年神様」を迎えるための正月の準備を始めるのが12月8日、すなわち「事始め」になり、年越しの「神事」が始まる日になります。そして後片付けなどすべてを納める日が2月8日、すなわち「事納め」になります。

 

こうして神様に関する一連の「事」が終わると、春を迎えて田畑を耕す時期となり、人々の生活が始まります。この人の日常生活が始まる日が「神事」の「事納め」になるのと同時に、人の「事始め」になるというわけです。そして人の「事納め」が12月8日の「神事」の「事始め」の日に当たることになります。旧暦2月8日は、今では3月中旬になりますので、まさに農作業が始まるころですね。このように、神様を迎える「神事」と、人が行う日常の期間に分けられ、それぞれ一方の始まりはもう一方の終わりの日になるわけです。

 

この「事始め」と「事納め」の日は、昔からさまざまな行事が執り行われてきました。中国の古い習わしに「社日(しゃにち)に針線を止む」という風習があります。生まれた土地の守護神を守る日に針仕事を休むということですが、これが江戸時代に日本に入ってきて、「事八日」の風習、更には淡路信仰と結びついて「針供養」が生まれたというのが定説になっています。淡路信仰というのは、和歌山県海草郡加太町にある淡路神社の祭神が「婆利才女(はりさいじょ)」であることに由来します。

 

針供養に豆腐が使われるのは、豆腐のように色白の美人になるようにとか、柔らかい気持ちになれるようにとか、あるいはまめ(豆)に働くことが大事(大豆)とか、豆腐は刺されても「痛い」と言わないから、我慢強くなることを願ったとか、諸説ありますが、その由来はよく分かりません。

 

いずれにせよ、モノを大切にした江戸時代の人々の気持ちが現れている行事の一つであると言えましょう。われわれも「物神様」を大切にしたいものです。

 

高見澤