おはようございます。梅雨に入り、本格的な夏ももう間もなくというのに、相変わらず朝晩は少し肌寒く感じるところですが、それでも着実に夏は近づいてきています。
さて、本日からはテーマを「弥生(やよい)」の年中行事に移しましょう。弥生とは、ご存知の通り旧暦3月の異称です。現在の新暦でも3月を弥生と言いますが、正式には旧暦3月のことを指します。というのも、その語源として、草木がいよいよと生い茂るという意味の「木草弥や生ひ(きくさいやおひ)」の「いやおひ」とする説が有力ですから、旧暦3月、すなわち新暦4月頃とした方が季節としては馴染むからです。この説は平安後期に藤原清輔によって書かれた歌学書『奥義抄(おうぎしょう)』や江戸時代中期に貝原益軒によって記された『日本釈名(にほんしゃくみょう)』に示されています。
もちろん異説として、正徳3年(1713年)に四時堂其諺(しじどうきげん)によって書かれた俳諧歳時記『滑稽雑談(こっけいぞうだん)』に見られる「ややおひ(漸生い)」説(植物が芽吹くこと)や「やまいろえひ(山色酔)」から転じたという説(山が単色から徐々に色付くこと)などもありますが、いずれも旧暦3月の光景です。
『日本書紀』では3月を「ヤヨヒ」と読ませているようですが、『古事記』や『万葉集』には使われていません。この「ヤヨヒ」が多く使われるようになるのは、平安時代になってからだと言われています。
やよひ三日は、うらうらとどのかに照りたる。桃の花の今咲き始むる。柳などをかしきこそさらなれ、それもまだまゆにこもりたるはをかし。広ごりたるはうたてぞ見ゆる。
おもしろく咲きたる桜を長く折りて、大きなる瓶(かめ)にさしたるこそをかしけれ。桜の直衣(なほし)に出袿(いだしうちき)して、まらうどにもあれ、御兄(せうと)の君(きん)たちにても、そこ近くゐて物などうち言ひたる、いとをかし。
お馴染み清少納言の『枕草子』にある一節です。この「やよひ」に「弥生」の漢字があてられたのがいつなのかははっきりしていません。
弥生は春の候ですから「花見月」や「桜月」とも言われています。ホトトギスを「弥生過鳥(やよいすごどり)」と呼ぶこともあれば、過ぎ行く春を惜しむ「弥生尽(やよいじん)」などの言葉もあります。また弥生3日を雛(ひな)の節句、すなわち「弥生の節句」と呼んだり、歌舞伎では弥生に上演する狂言を「弥生狂言」と呼んだりすることもあります。
旧暦3月は「晩春」であり、「季春」とも呼ばれます。季節的には一番過ごしやすい時期かもしれません。
高見澤