おはようございます。本日の東京都心も雨、これで8月に入って16日連続の雨ということだそうで、昨日までの15日連続というのは、1977年以来40年ぶりのことだとか。梅雨にはあまり降らなかった雨も、ここにきて一気に降り出し、気温の低下による作物への影響が心配されるところです。
さて、本日は雨にちなんだお話を一つ。新暦5月下旬、「走り梅雨」とでもいいましょうか、梅雨に先駆けて長雨が降ることがあります。この時期はちょうど「卯の花(ウツギ)」が咲き誇る頃です。卯の花とは、ユキノシタ科の落葉低木ウツギ(空木)の花のことです。
春から夏にかけての爽やかな日差しの下で、卯の花が生き生きと輝いて見えますが、しばらく降り続く雨に打たれて、生気を失ったように感じられる時があります。もちろん、適度なお湿りは花々にとって必要だし、時には美しさを引き立てる役割もありますが、それも度を超えると、卯の花も「もういい加減にしてくれ!」とでも言いたくなるのでしょうか。
この卯の花を腐らせるほど長く降り続く雨を「卯の花腐し(くたし)」と呼びます。「五月雨(さみだれ)」すなわち「梅雨」の異称ともされることもありますが、卯の花の盛りは実際の梅雨よりも少し前なので、走り梅雨と言った方が時期的にはしっくりいくかもしれません。歳時記などでは、春雨と梅雨の間の長雨と説明しています。
卯の花腐しについては、昔から和歌などにも多く詠われており、江戸時代にも、下記のような歌が残されています。
ほととぎす羽振くたよりに鳴きもせば卯の花くたす雨や待たまし
『漫吟集』 契沖〔寛永17年(1640年)~元禄14年(1701年)〕
山賤の垣ほはまたも訪ひてみん卯の花くたす雨ふらぬまに
『琴後集』 村田春海〔延享3年(1746年)~文化8年(1811年)〕
ほととぎす忍びかねたる一声は卯の花くたし降る夜なりけり
『千々廼屋集』 千種有功〔寛政8年(1796年)~嘉永7年(1854年)〕
この里は卯の花くたし降り初むる夕べよりこそ蚊遣焚きけれ
『調鶴集』井上文雄〔寛永12年(1800年)~明治4年(1871年)〕
卯の花も腐らせるような長雨でも、こうして歌に詠まれるほど愛されていたのかもしれません。江戸の人々のゆとりある生活が想像できます。卯の花の咲く頃の曇り空は「卯の花曇り」と呼ばれており、卯の花のまばゆいばかりの白さが際立つのは、晴天よりも曇天や雨の日だという解釈もあるようです。
高見澤