おはようございます。ここ東京は連日の雨日和で、傘が手放せません。台風21号が発生し、週末から来週にかけて日本列島に接近する可能性があるとのことで、注意が必要です。実は今週木曜日19日の夕方のフライトで中国北京に急遽出張することになりました。20日は朝から晩まで1日中会議、打合せで、21日土曜日の朝便で帰国の予定です。21日午後4時半から歌舞伎を見ることになっているのですが、台風の影響で飛行機が遅れないことを祈るばかりです。
さて、本日は葉月を飾る最後のテーマとして、「蝉時雨(せみしぐれ)」について紹介しておきたいと思います。蝉時雨とは、たくさんの蝉が一斉に鳴いている様を、時雨の降る音に見立てた言い回しです。俳句では「蝉」ともに夏の季語になっています。ところがおかしなもので、「ヒグラシ(蜩)」と「ツクツクボウシ(つくつく法師、寒蝉)」は秋の季語です。
一方、「時雨(しぐれ)」とは秋から冬にかけて一時的に降ったり止んだりする通り雨のことで、俳句では冬の季語です。この雨が竹藪や庭の石などを叩き、家の軒庇を打ちながら一時的に通り過ぎていく音を、日本人は詩情をもって「しぐれ」と表現したのでしょう。
蝉はカメムシ目(半翅目)頸吻亜目セミ上科に分類される昆虫で、全世界では約3,000種類ほどいるとされており、そのうち日本では30種類ほどが確認されています。蝉たちは、夏の暑い盛りを迎えると一斉に地上に這い出てきます。地下で3年から17年間(種類によって異なる)の充電期間を耐え忍んで、地上での1カ月程度(昔は1週間と言われていた)の短い寿命の中で次の世代を残すために、精いっぱいの鳴き声を上げるのです。
蝉といっても色々な種類があります。「ニイニイゼミ」は梅雨明けから9月頃までで、ピークは7月末、「チーチー...」と鳴きます。「アブラゼミ」は7月から9月頃までで、主に午後から夕方に「ジージジー...」と鳴きます。「ミンミンゼミ」も7月から9月頃までで、広葉樹の幹などで「ミーンミンミン...」と鳴きます。「クマゼミ」も7月から9月頃までで、関東以西、特に関西でよく見られ、「シャーシャー...」と鳴きます。そして「ヒグラシ」ですが、こちらは7月から8月頃、朝夕に林の中で「カナカナカナ...」と鳴きます。「ツクツクボウシ」は少し遅くて8月(晩夏)から9月にかけて「オーシツクツク...」と鳴きます。
「浮島や 動きながらの 蝉時雨」
小林一茶が享和3年(1803年)10月に詠んだ句〔『享和句帖(きょうわくちょう)』〕です。
こうした蝉の鳴き声を聞くと、日本人は夏真っ盛りの風情を感じるのではないかと思いますが、同時に暑苦しさを覚える人もいるかもしれません。緯度の関係で欧州には蝉があまり生息しておらず、中には蝉の声が雑音に聞こえてしまう人もいるようです。そんな中で、朝夕に聞くヒグラシの鳴き声は、どことなく清涼感や物悲しさを感じさせるところがあります。
「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」松尾芭蕉〔『奥の細道』元禄2年(1689年)〕
旧暦5月27日(新暦7月13日)に出羽の国(山形県)で読まれた句ですが、時期からいってヒグラシであった可能性もあります。
藤沢周平が書いた長編時代小説『蝉しぐれ』は、東宝映画にもなっています。
高見澤