東藝術倶楽部瓦版 20180703:江戸湾出入船舶の監視から海上防備へ-「下田奉行」と「浦賀奉行」

 

おはようございます。ここ東京では暑い日が続きます。その一方、西日本では台風7号の影響で暴風や高波の危険性が高まっています。世界的にみれば、バリ島グアン山では溶岩を伴うマグマ噴火が起きています。地球規模での自然災害の発生は、ますますその頻度が増えているように思えます。

 

さて、本日は遠国奉行の「下田奉行」と「浦賀奉行」について紹介したいと思います。下田奉行、浦賀奉行共に老中支配の旗本役です。どちらも江戸湾に出入りする船舶の監視や江戸湾の海上防衛に係る重要な役割を担う役職で、時々の情勢の変化によって設置や廃止が頻繁に行われていました。

 

先ずは下田奉行について紹介します。伊豆国下田は江戸の南西に位置し、伊豆国は小国であったものの江戸を防御する自然立地をなしていたことから、特に海上交通の要衝でした。東海道箱根関を控える三島に代官陣屋が置かれるのとともに、下田には江戸/大坂間の海上交通の要所であったのです。俗に箱根の「陸の関所」に対して下田は「海の関所」としての機能を果たしていました。

 

下田奉行が設置されたのは元和2年(1616年)、初代奉行は今村重長です。「元和偃武(げんなえんぶ)」と呼ばれる太平の世になって以来、江戸幕府の中央集権化が急速に進展、城下町江戸の建設・整備も本格的な取り組みが始まり、江戸湾に出入する船舶も増えてきたのが下田奉行設置の目的でした。

 

下田奉行の主な職務は下田湊の警護、江戸湾に出入りする船舶の監視・廻船積荷改などでした。下田奉行の定員は1~2名、役高は当初1,000石、役禄1,000俵で、布衣役となっていました。配下には下田奉行支配組頭と同支配調役、与力、同心、足軽、主水頭取(かことうどり)、足留主水などが配されていました。享保5年(1720年)に下田奉行の機能が相模国浦賀番所に移り、浦賀奉行が設置されて、下田番所は一時閉鎖されました。

 

海防の危機が顕在化してきた天保13年(1842年)に再び下田奉行が設置されますが、それも弘化元年(1844年)には再度閉鎖されます。嘉永7年(1854年)3月に日米和親条約(神奈川条約)の締結により下田が開港、それに伴って下田奉行が三度配置されました。幕末には外交上の重要な出張機関として外交事務を司っていたことから下田奉行の重要性が増し、役高も2,000石と加増、諸大夫となりました。この時期、下田奉行と浦賀奉行が併存していたわけです。

 

その後、安政5年(1855年)、日米修好通商条約の締結により横浜が開港されると、翌安政6年(1856年)に下田開港場は閉鎖、そして万延元年(1860年)に下田奉行所も廃止されることになりました。

 

次に浦賀奉行ですが、前述した通り、享保5年(1720年)に下田番所が閉鎖され、下田奉行が浦賀番所に転置されて浦賀奉行として従来の下田奉行の職務を引き継ぎます。初代浦賀奉行を務めたのは下田奉行から転じた堀利雄です。浦賀奉行は江戸湾の出入り船舶の監視・積荷改めのほか、相模国三浦郡内の天領(幕府領)と浦賀の町政支配、江戸湾防備の職務も管掌していました。

 

浦賀奉行の定員は1~2名、役高は1,000石、役料500俵で、配下に与力12騎、同心50人が配され、浦賀の廻船問屋が付属していました。当初、平時は属僚を浦賀に派遣して職務の遂行にあたらせ、浦賀奉行は江戸で執務を行っていました。天保8年(1837年)、「モリソン号事件」以降、浦賀奉行の任務は重要性を増し、嘉永6年(1853年)以降、石高は2,000石となり、外国との交渉が恒常的となる文久2年(1862年)からは奉行も浦賀に駐在するようになりました。安政年間(1854年~1860年)頃から要職としての格式も高くなって、遠国奉行首座の長崎奉行よりも上席に列することになりました。

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このページは、システム管理者が2018年7月 3日 12:45に書いたブログ記事です。

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