東藝術倶楽部瓦版 20190510:東海道から続く西国への脇街道-「西国街道」

 

おはようございます。先週末に米国トランプ大統領が突然発表した中国からの輸入製品に対する追加関税措置が、米国時間で本日午前零時から発動されようとしています。今週の世界株式市場での株価の大幅下落はこのニュースを受けてのもので、現在、米国を訪れている中国の劉鶴副総理による米国政府との協議の結果によっては、追加関税措置が見送られる可能性もないわけではありません。米中貿易摩擦の日本経済への直接的影響はそれほど大きくはないものの、間接的には少しずつですが日本企業の業績を圧迫し始めているようです。今のところ、米中協議の結果が伝わってきていませんが、今回の措置は規模が大きいだけに、政財界・学界ともに注目しているところです。

 

さて、本日は「西国(さいごく/さいこく/せいごく/せいこく)街道」について紹介したいと思います。西国街道は江戸時代における脇街道の一つで、別名「山陽道」、「山陽路」、「西国往還」、「西国道」、「西国路」、「中国街道」、「中国路」などとも呼ばれていました。山陽道といえば、以前紹介した古代の行政区分である五機七道の一つで、播磨(はりま)、美作(みまさか)、備前(びぜん)、備中(びっちゅう)、備後(びんご)、安芸(あき)、周防(すぼう)、長門(ながと)の国々を指し、それらの国を通る幹線道路も山陽道と称していました。現在でいえば兵庫県、岡山県、広島県、山口県です。律令時代には、山陽道は畿内と九州地方を結ぶ重要な「大路」として位置付けられていたことは、以前紹介した通りです。

 

江戸時代において、西国街道として整備されていたのは京都の羅城門(東寺口)から長門国赤間関(あかまがせき、現在の山口県下関市)に至る道で、東海道の延長線上に脇街道として位置付けられていました。また、赤間関から関門海峡を抜けて小倉へ通じる道でもあることから、江戸と長崎を結ぶ幹線道路としても重要な役割を果たしていました。寛永10年(1633年)の幕府巡視使の視察や寛永12年(1635年)から始まる参勤交代制度を確立させる意味でも欠かせない街道でした。

 

この京都から赤間関まで通じる西国街道は、総延長576キロメートルにも及びます。このうち、京都から西宮までの6宿(山崎宿、芥川宿、郡山宿、瀬川宿、昆陽宿、西宮宿)を「山崎街道(やまさきかいどう)」、「山崎路(やまさきじ)」、「山崎通(やまさきのみち)」と呼び、狭義の意味での西国街道を指し、西宮以西を山陽街道とすることもあります。この山崎街道は、大坂を経由せずに西国と東海道を結ぶことから、三国大名の参勤交代にも利用されていました。また、山崎街道とは別に、以前東海道のところで解説した京都と大坂を結ぶ「京街道(大坂街道)」や、大坂と西宮を結ぶ「浜街道(はまかいどう)」などもあり、浜街道は狭義の意味での「中国街道(中国路、中国道)」とも呼ばれていました。

 

西宮以西から赤間関までを西国街道とすることもあります。播磨の打出(芦屋)から生田神社(神戸元町)の南まで、街道は南北に山側と海側の二手に分かれており、山側のルートを「西国本街道」、海側のルートを「西国浜街道」と呼んでいました。街道の幅は二間半(約4.5メートル)と定められ整備されていきました。

 

幕末、兵庫港の開港に伴い、大名行列と外国人との衝突を避けるため、石屋川(神戸市東灘区)から大蔵谷(明石市)までの間を、六甲山中を抜けて迂回する「西国往還付替道」が開削されます。この道が開通したのは兵庫港開港と同じ日の慶応3年(1867年)12月7日のことで、全長約33キロメートルでした。この道が開通した3カ月後の慶応4年(1868年)3月に外国人居留地を迂回する別の道が設けられ、この道は廃れていきましたが、近年、六甲山系摩耶山登山道として再整備されているとのこと。この道を地元では「徳川道」と呼んでいるそうです。江戸時代に整備された道が、現代に甦って新たな役割を果たすようになる。「故きを温ね新しきを知る」ことの大切さを知らしめるよい例だと思います。

 

高見澤

2021年1月

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このページは、東藝術倶楽部広報が2019年5月10日 09:50に書いたブログ記事です。

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