東藝術倶楽部瓦版 20190729:【江戸の乗物その7】多種多様な使い分け-「牛車の種類」

 

おはようございます。週末に台風の影響が心配されていた東京ですが、外出時には傘をさすこともありませんでした。そろそろ梅雨明け宣言が出され、今週辺りから気温も大きく上昇することでしょう。暑さ対策には十分ご注意を!

 

さて、本日は前回の予告通り、「牛車の種類」についてどのようなものがあったのかを見ていきましょう。今回は乗り物としての牛車ですが、前回も紹介した通り、江戸時代には乗り物として牛車はほとんど使われておらず、以下の牛車はいずれも平安時代に使われたものであることを、ご承知置き下さい。

 

1.唐庇車(からびさしのくるま)〔唐車(からくるま)〕

屋根が唐棟(からむね)の破風(はふ)で作られているところから、この名が付けられた。落入(おとしいれ)の物見あり。太上(だいじょう)天皇〔上皇〕、摂政・関白が大嘗会御禊(だいじょうえごけい)の行事、春日詣(かすがもうで)や賀茂詣(かももうで)など、ハレの日に乗用する最高級の牛車。車箱(屋形)は大きく、「棧(はしたて)」と呼ばれる梯子で乗り降りした。

 

2.雨眉車(あままゆのくるま)

唐庇車の簡略版で、眉が唐破風の形状になっている。唐庇車の御簾が蘇芳(すおう)色〔黒味を帯びた赤色〕の「蘇芳簾(すおうれん)」であったのに対し、雨眉車の御簾は青く、下簾は青裾濃(あおすそご)」で、物見はなし。摂政・関白が直衣(のうし、なおし)姿〔平常服〕の際に利用した。

 

3.枇榔毛車(びろうげのくるま)〔毛車(けぐるま)〕

枇榔の葉を細かく毛のように裂いて、屋根を葺いた車。物見はなく、蘇芳簾で下簾は赤裾濃(あかすそご)。太上天皇以下四位以上の上級貴族が乗用し、入内する女房(奥向きの女性使用人)や高僧も用いることができた一般的な車。

 

4.枇榔廂(庇)車(びろうひさしのくるま)

枇榔毛車に物見を設置したもので、前後眉下と物見の上に廂が付いている。太上天皇、親王、摂政・関白、大臣が乗用した。

 

5.糸毛車(いとげのくるま)

車箱の屋根部分である上葺(うわぶき)を色染めした糸で覆った車で、物見はない。内親王、三位(さんみ)以上の内命婦(ないみょうぶ)、更衣の貴婦人が乗用した。青糸車は皇后、中宮、東宮が乗車。紫糸車は女御、更衣、尚侍、典侍(ないしのすけ)〔後宮の女官〕が乗用。赤糸車は「賀茂祭り」の際に女使が使用した。

 

6.網代車(あじろぐるま)〔文の車(もんのくるま)〕

車箱の表に、檜や竹などの薄板を網状に組んで張った車の総称。袖や立板などに漆で絵紋様を描いたものが多く、特に袖表や棟表を白く塗り、家紋を付けた車を「袖白の車」、「上白(うわじろ)の車」と呼び、大臣の乗用とされた。また、棟、袖、物見の上に紋様を描いた車を「文の車」と言った。大臣以下の公卿が略儀遠行に用いた。

 

7.半蔀車(はじとみのくるま)

檜を網代に張った網代車の一種。物見の懸戸が上下2枚からなり、下1枚を固定して上1枚を外側へ押し上げて釣り、開閉できる釣り蔀、半蔀という構造になっている。太上天皇、摂政・関白、大臣、大将が乗用した。

 

8.八葉(曜)車(はちようのくるま)

網代車の一種で、網代を萌黄(もえぎ)色(黄緑)に塗り、その上に九曜星紋(八葉の紋)を描いた車。紋の大小で区別し、大八葉は大臣、公卿、僧正、僧綱が日常乗用し、小八葉は略儀なもので、少納言以下の地下人(じげにん)や僧侶が用いた。

 

9.金作車(こがねづくりのくるま)

車に使われる金具の金属によって、乗車する人の身分が決まっていた。例えば、典侍が乗る金造りの糸毛車、女蔵人(にょくろうど)〔宮中に奉仕した女官〕が乗る金造りの枇榔毛車、命婦(みょうぶ)〔従五位以上の女性〕が乗った銀造りの糸毛車。これらはすべて金作車に属するもの。

 

10.飾車(かざりぐるま)

賀茂の祭りの勅使や御禊の前駆、殿上人の祭り見物など、祭礼の際に使われた車。金銀、珠玉の類で飾り立てた。

 

11.黒筵車(くろむしろのくるま)

公卿が喪中の際に使っていた車。

 

12.板車(いたぐるま)

当初は身分にかかわらず使われていたようだが、一条天皇〔在位:寛和2年(986年)~寛弘8年(1011年)〕の頃より六位専用の車となった。板張りの箱型の車を指す。

 

高見澤

2021年1月

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このページは、東藝術倶楽部広報が2019年7月29日 10:54に書いたブログ記事です。

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