東藝術倶楽部瓦版 20190723:江戸の乗り物その4-御こしに奉りて後にかくやひめに、「輿」

 

おはようございます。イマイチ盛り上がりに欠けた参議院議員選挙も、明けてみれば特段取り上げるようなトピックもなく、強いて挙げてみれば、「れいわ新撰組」や「NHKから国民を守る党」、「安楽死制度を考える会」など、従来の政党にはなかった特異な政党が選挙戦に打って出たというところでしょうか。これまでには新興宗教勢力を基盤とした政党も存在していますが、それとは別の意味で多少は話題にもなったかもしれません。そもそも政治というのは、総合的な判断が必要です。一つの目的を達成するために、他のことを犠牲にしては何にもなりません。「誰かが得をして誰かが損をする」という仕組み自体を変える必要があるのです。まあ、日本にそういう意識で選挙に出ようとする候補者がどれだけいるかは、言うまでもないことですが...。明日は所用があって瓦版はお休みさせていただきます。

 

さて、本日は江戸の乗物その4として、「輿(こし、よ)」について紹介しようと思います。輿とは、人が肩で担いだり、手で持ったりして人を運ぶ乗り物のことで、日本ばかりでなく、古代中国や中世ヨーロッパでも同じ形態の乗し物が存在していました。

 

一般的な輿の形態は、「轅(ながえ)〔長柄〕」と称する2本以上の棒の上に人を乗せる台を設置しています。輿には大きく2つに分けられており、轅を肩で担ぐものを「輦輿(れんよ)」或いはただ単に「輦(れん)」と呼び、腰の位置で轅を手で持つものを「手輿(たごし、てごし)」或いは「腰輿(ようよ)」と呼んでいました。手輿の場合、轅に紐を結んで、それを肩から掛けて手で轅を支えていました。輦輿を担ぐ者は「駕輿丁(かよちょう)と呼ばれ、手輿を運ぶ者は「力者(ろくしゃ)」または「輿丁(よちょう)」、「輿舁(こしかき)」と呼ばれていました。

 

日本では何時頃から輿が使われるようになったのかは定かではありませんが、『日本書紀』に垂仁天皇(実在したとすれば3世紀後半から4世紀前半)15年に丹波竹野媛(たにはのたかのひめ)」が輿から落ちて亡くなったとの記述があることから、この頃には高貴な人の乗り物として使われていたものと思われます。奈良時代から用いられていたのは輦輿の方で、手輿が出現したのは平安時代になってからのことです。当初は天皇の乗用具として使われており、その後、大宝元年(701年)の大宝律令では、天皇のほか、皇后や斎王(さいおう)〔伊勢神宮または賀茂神社に巫女として奉仕した未婚の内親王または皇女・王女〕に限定して使用されるようになりました。

 

平安時代後期には、『竹取』に「御こしに奉りて後にかくやひめに」と記されているように、上皇や公卿(くぎょう)以下でも乗用するようになります。『吾妻鏡』には、文治2年(1186)年11月に源頼家が鶴岡八幡宮参詣の際に輿を利用したことが記されており、鎌倉時代では将軍家でも利用されていたことが分かります。室町時代になると、将軍のほか、鎌倉公方、管領家などのごく限られた上流武家のみが使用できる「牛車(ぎっしゃ)」に次ぐ特別の乗り物とされていました。

 

江戸時代に乗用具として利用されたのは主に馬と駕籠です。輿は移動手段というよりも、儀式や儀礼の場での乗り物として使われ、それを使うことができたのは、武家のなかでも家格が高いごくわずかな身分の人たち、すなわち御三家及び御三卿、7家の松平家、加賀前田家など22家を合わせてた計35家と厳格に定められていました。

一方で、東海道の大井川を渡る際には、「輦台(蓮台/連台)」に乗り、川越し人足に担いで渡してもらう方法が採られていました。また、婚礼の際に、妻の実家から婿の家に輿に乗せて嫁を運ぶ風習があり、このことから結婚のことを「輿入れ」、「入輿(じゅよ)」といいます。身分の高い家、或いは金持ちの家に嫁ぐことを「玉の輿」というのも、ここからきています。祭礼の際に祭神を乗せた「神輿」、葬儀の時に棺を載せた葬具も輿の一種です。

 

次回は輿の種類について紹介したいと思います。

 

高見澤

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このページは、東藝術倶楽部広報が2019年7月23日 09:14に書いたブログ記事です。

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