おはようございます。
昨日は仕事が忙しく、瓦版の送付ができませんでした。しばらく、こうした突然の休刊が発生しますが、ご容赦ください。
調味料の話題は本日の「砂糖」で最後です。この後は、本格的に江戸の食についてご紹介していこうと思います。
砂糖は、大きく分けると糖蜜を分離せずにそのまま結晶化した「含蜜糖」と、糖蜜を分離して糖分のみを生成した「分蜜糖」があります。含糖蜜には黒砂糖、白下糖、カソナード(赤砂糖)、和三盆などがあります。分蜜糖は、糖蜜をある程度取り除いた粗糖、さらにそこから糖分純度を高めた精製糖に加工されます。そのうち結晶の大きなものはザラメ糖として白双糖、中双糖、グラニュー糖などがあり、結晶の小さなものは車糖として上白糖や三温糖があります。この他にも、液体の液糖やザラメ糖を加工した加工糖(角砂糖、氷砂糖、粉砂糖、顆粒状糖等)などもあります。日本で最も一般的なのは上白糖で、消費量の半分以上を占めています。しかし、上白糖は日本独自のもので、政界的にはグラニュー糖が一般的です。
砂糖の原料となるのは、サトウキビ、テンサイ(サトウダイコン)、サトウカエデ、オウギヤシ(サトウヤシ)、スイートソルガム(サトウモロコシ)などがあります。サトウキビはブラジル、インド、中国等の比較的暖かい地域で採れ、日本では沖縄や奄美群島で栽培されています。一方、テンサイは寒冷地の作物で、日本では北海道を中心に栽培され、砂糖の国産原料の約75%を占めています。サトウカエデは樹液を煮詰めて濃縮したメープルシロップ、オウギヤシも樹液から造るパームシュガーで知られています。また、スイートソルガムはシロップのほか、バイオエタノールの原料に使われることもあります。
この砂糖と人類との間には長い歴史があります。紀元前1500年頃には南太平洋にサトウキビ発祥の伝説が残っており、それが東南アジアを経てインドにもたらされたとの説がありますが、インド原産との説もあります。紀元前5世紀には既にインドで砂糖の製造が行われていたと考えられています。
中国では5世紀にサトウキビを煮詰めて乾燥させた「沙糖」が作られていたようです。6世紀前半、北魏の時代には、中国(世界)最古の農業書である「斉民要術」が賈思勰(かしきょう)によって著され、そこにサトウキビの栽培方法が記されています。
砂糖が日本に伝わったのは奈良時代、754年に唐の僧、鑑真が日本に渡る際、砂糖を持参したといわれています。756年の正倉院に保存される大仏に献上した薬の目録「種々薬帖」に、「蔗糖」の記録が見られ、これはサトウキビから作られた砂糖を意味しています。当初は中国からの輸入でしか手に入らない貴重な医薬品として、取り扱われていたのです。
平安時代後期から南北朝時代にかけて、製糖に関する知識も広まり、15世紀半ばからは、茶の湯の流行とともに砂糖を使った和菓子が発達しました。しかし、それでも砂糖が貴重であったことに変わりはありません。南北朝時代の「新札往来」という書物の中には、「砂糖饅頭」の記述が見られます。
戦国時代に入り、南蛮貿易が始まると、宣教師たちによってカステラ、金平糖、ボーロなど様々な西洋の砂糖菓子が持ち込まれるようになります。また、アジア諸国からの砂糖の輸入量も増え、砂糖の消費量はさらに増大していきます。
江戸時代初期、1609年に薩摩国大島郡(奄美大島)の直川智(すなおかわち)が黒砂糖の製造に成功し、薩摩藩支配下の琉球王国では、1623年に儀間真常(ぎましんじょう)が部下を明国・福州に派遣してサトウキビの栽培と黒糖の生産法を学ばせました。これにより黒糖生産が奨励され、やがて琉球の特産品となりました。
江戸時代には、砂糖が海外からの主要な輸入品の一つになり、高値で取引されるようになりました。砂糖の輸入増加とともに、和菓子作りが盛んになります。しかし、17世紀後半には砂糖輸入のために海外へ流出していた金銀が枯渇し始め、このため経済的な負担を減らすために、1727年に八代将軍徳川吉宗がサトウキビ栽培を奨励し、砂糖の国産化を目指します。
また、各藩も価格の高い砂糖に着目し、以後太平洋沿岸・瀬戸内沿岸でサトウキビが栽培されます。特に高松藩主・松平頼恭は自国領内でサトウキビ栽培を奨励し、天保期には国産白砂糖生産の6割を占めるまでになります。高松藩では、さらに「和三盆」の開発に成功します。和三盆は高級砂糖として現在でも珍重されています。
このように、江戸時代後期には高嶺の花であった砂糖も一般に普及するようになり、庶民の口にも入るようになりました。
この時期、大阪の儒者である中井履軒(1732~1817年)は著書「老婆心」の中で砂糖の害を述べ、砂糖亡国論を唱えています。現代でも、白砂糖の害を訴える人も少なくありません。白砂糖は、精製過程で植物自体が自然に持つミネラルや栄養素が奪われるだけでなく、危険な薬剤が多く使われるからです。この時点で白砂糖は調味料ではなく、食品添加物になっているというわけです。確かに、黒砂糖は甘味だけではなく、様々な味のコントラストが感じられます。また、料理の甘味を出すには「みりん」を使う方法もあります。
野菜自体、自然の甘味を備えているので、料理に砂糖は不要という考え方もありますが、それでも和菓子やケーキ、アイスクリームなど、時々甘いものが欲しくなりますよね。
いずれにせよ、調味料をバランスよく上手に使っていくことが大事だと思います。
高見澤