東藝術倶楽部瓦版 20190726:【江戸の乗り物その6】高貴な乗物から荷車へ-「牛車」

 

おはようございます。今朝の東京は、やっと夏らしい晴天の朝日を迎えています。日中は暑くなりすです。ただ、日本の南にある熱帯低気圧が発達しながら北上しているとのことで、夕方頃から曇り、夜には雷を伴った雨が降る可能性もあるようです。熱帯低気圧が台風に変わる可能性もあり、その影響で週末は天気が一時的に雨日和となりそうです。季節の変化を楽しめる時期でもあります。

 

さて、本日は「輿」にも関係する移動手段「牛車(ぎっしゃ)」について紹介したいと思います。牛車とは、文字通り牛や水牛にけん引させる車のことです。世界的に昔から利用されていて、人を乗せる乗用として使われるものと、荷物を載せて運搬する荷車として使われるものがあります。日本では主に平安時代から安土桃山時代にかけては高貴な人たちの乗用として使われていましたが、江戸時代に入ると主に荷車として使われるようになりました。乗用の牛車は、応仁の乱〔応仁元年(1467年)~文明9年(1478年)〕以降、禁中の大儀だけに使われたため、俗に「御所車(ごしょぐるま)」とも呼ばれています。

 

もともと牛車は馬車とともに中国から伝わってきたものと思われます。古来中国では、貴人の乗り物は馬車が一般的でしたが、後漢の献帝(在位189年~220年)が長安から洛陽に逃げ帰る際に牛車を利用して以降、牛車が貴人の乗り物として使われるようになったとの伝承があります。牛車は馬車に比べ速度が遅いのですが、大量の荷物を運ぶことができたことから、乗用は馬車、貨物用は牛車と使い分けされていたようです。

 

日本において牛車が貴族の乗り物として広まったのは平安時代のことです。奈良時代にも牛車は存在してようですが、平安遷都以降、京洛(きょうらく)を中心に道路が発達し、路面の整備が進むとともに牛車の利用が盛んになります。ただ、牛車に求められたのは、移動としての機動性よりも使用者に対する権威付であり、そのため重厚な造りや華美な装飾に力が注がれました。その傾向があまりにも行き過ぎたため、寛平6年(894年)に一時的に牛車への乗車が禁じられたこともありました。

 

平安時代、牛車の利用は官職により厳格に制限が設けられていました。牛車の使用許可証を「牛車宣旨(ぎっしゃせんじ)」といいます。乗る人の位階や家柄、公私用の別などによって使用する牛車の種類が定まっていて、宮城内の出入りにも細かい規定がありました。牛車の種類はその構造や装飾などにより分けられています。この詳細については、次回紹介したいと思います。

 

中世以降、武家の世になると、従五位以上の官位を持つ武家が牛車に乗る権利を有するとされますが、実際に使っていたのは将軍家のみでした。応仁の乱以降、牛車は貴族の間でも廃れてしまいます。その後、天正16年(1588年)に豊臣秀吉が聚楽第への行幸に際して巨大な牛車として御所車が新調されたとの記録が残るのみです。

 

牛車の一般的な形態は、人が乗る部分に屋形(車箱)が設けられ、車輪は左右に一つずつ、前方左右に長く前に突き出した木の轅の先端に軛(くびき)と呼ばれる横木を付けてそれを牛の首に掛けるようになっています。通常は4人乗りですが、2人乗り、6人乗りのものもありました。屋形の出入り口には御簾を前後に懸け垂らし、内側に絹布の下簾(したすだれ)を付けます。乗降には榻(しじ)と呼ばれる踏み台を使い、乗るときは後ろから、降りるときは牛を外して前からとされています。また、男性が乗る際には御簾を上げ、女性が乗る場合は下げます。大きな牛車の場合、乗降は榻ではなく「棧(はしたて)」と呼ばれる5段の階段(梯子)を使いました。

 

貴人の乗り物として使われてきた牛車ですが、その実用性が乏しかったこともあり、江戸時代には牛車の屋形部分を活用した駕籠が乗り物としての主流となっていきます。江戸時代、牛車としての実用性は、もっぱら荷車に活かされていくことになります。次回は、少し江戸を離れて牛車の種類について紹介します。

 

高見澤

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このページは、東藝術倶楽部広報が2019年7月26日 09:13に書いたブログ記事です。

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